日本人の著書、異例の米Amazon全書籍ランキングでNo.1に

先日ある調査のため、米Amazonのランキングページを徘徊していると見覚えのある本が6位にランキングされていて驚いた。
Amazonのベストセラーページは、諸外国のトレンドを簡単に確認できる簡易マーケティングツールとして重宝している。

近藤麻理恵(通称、こんまり)による『人生がときめく片づけの魔法』の英語版 "The Life-Changing Magic of Tidying Up" である。私は姉の紹介ですでにこの本を読んでいたため、米国でトップ10入りしていることを発見して嬉しくなり、その日以来日々「今日は何位だろう」と確認していたところ、ついに昨日(日本時間で2月28日)米Amazon書籍ランキングで、堂々の1位になったようだ。

この本はタイトルの通り「片付け」に関する本だが、1位になったのは「生活関連書籍」カテゴリーではない。小説やビジネス書、歴史、宗教、政治、経済、アート、スポーツ、子供向け書籍を含む、「全」書籍のランキングである。総発行部数はロングセラーに比べれば未だ少ないだろうが、少なくとも今この瞬間は、映画で話題の『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』や児童書の『はらぺこあおむし』、その他『アルケミスト』『7つの習慣』『グレート・ギャツビー』よりも売れているということだ(これらいずれもトップ100以内)。

発売から間もない本書は既にレビューも1,000件以上投稿されており、同じく生活関連カテゴリーで日本でもベストセラーの "Lessons from Madame Chic"(邦題『フランス人は10着しか服を持たない』)を上回っている(ちなみ私はこちらもちゃっかり読んだ)。村上春樹の『色彩を持たない…』や『1Q84』が米Amazonで何位まで上りつめたのかは不明だが、この『人生がときめく…』はイタリア語版も伊Amazonで1位、フランス語版は仏Amazonで発売前の予約の段階で6位になったというのだから、国外ではほぼ無名の日本人の著書としては極めて異例のことではないだろうか。

さて、私はこの本、「幅広く万人に読んでもらいたい」本だと思った。極端に言えば「日本人一億人全員に読んでもらいたい」とさえ思った。

このような意見は大げさに聞こえるだろうから一点補足しておきたい。私は、読書家というにはほど遠いが、人並みに様々なジャンルの本を読んできた。国内外の文学に始まり、哲学書、戦記物(特に第二次大戦)、科学、宗教書、自伝、政治・経済、ビジネス書、インターネット関連技術書、医学書等々、もちろん考え方や人生を変えられた書籍にもたくさん出会ってきた。しかし、「日本人全員に読んでもらいたい」とまで感じさせられた本は、この本を除いてただの一度もなかった。

それどころか、私は他人に書籍を紹介することに関しては極めて慎重である。人によって読む本はその時の気分があるだろし、本を読むということは、その人の人生の数時間、場合によっては一日以上を割くことになる。もちろん「この本面白かったよ」くらいの話はよくするが、是非とも読んで欲しいと他人に強く勧めた本は、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス(Amazon創業者)が絶賛するマーケティング書の名著『イノベーションのジレンマ』くらいである。このブログでも書籍を紹介するのははじめてだ。

そんな私が、よりによって「片付け」のような一見卑近なテーマの本に「日本人全員に読んで欲しい」とまで感じさせられた理由は、この書籍の根底にあるテーマが、物とは何か、幸福とは何か、という深遠なものにもかかわらず、自己啓発書にありがちな説教的な記述がほとんどなく、そのテーマに向かいあう手段が、目の前にある文具や書類、クローゼットの衣服や雑貨、家具、電子機器、昔の写真や旅先で購入したお土産などから始められるという極めて実践的な点にある。そのため、この本を読んでも何の役に立たないであろう人種を想像することができなかった。どんな人間だってペンを2本以上持っているだろうし、ビジネスマンならワイシャツは2枚以上持っているだろう。彼女のクライアントに経営者や起業家、その他社会的影響力が高い人たちが多いのも納得できる。

すでに英語版が発売されていることは最近知ったが、一点気になったのは「身の回りにある物は全て、あなたを幸せにする使命を持っている」というようなanthropomorphism(神や物質の擬人化)的な記述が、一神教が背景にある西洋では受け入れられにくいのではないか、という点だった。しかしこれは杞憂だったようだ。実際Amazonのレビューを見るとそのような指摘が見られたが、そのような文化的な違いを超えて、これだけ評価されている。

参考)

著者のGoogle社での講演の様子

ニューヨーク・タイムズの記事
Kissing Your Socks Goodbye - Home Organization Advice from Marie Kondo

ウォール・ストリート・ジャーナルの記事
Marie Kondo and the Cult of Tidying Up